【前回の記事を読む】いよいよ運命の試練の日――里見と玲蓮が作り上げた究極のスープの評価は如何に

第4話 13.Feb チョコレーション

つまり僕は工藤瀬菜さんに一目惚れをしてしまったわけで、本当はこれまで"一目惚れ"なんてワードは、「何かのコピーか」ぐらいにしか認識していなかったんだけどね。

僕としては、どうしようもなく、アイ・ハブ・ア・シチュエーション的状態に陥ってしまった。悶々とするって、こういうことかと最近は思い知らされているんだ。

けど、とにかく、瀬菜さんを思うたびに、今現在、心の底のほうからため息が湧き上がってきて、すごく苦しくて仕方ないんだ。君にそんな経験があるかは知らないけどね。

瀬菜さんが僕の家に初めて来たのは2ヶ月前。同居する姉貴が連れてきた。姉貴の通う服飾専門学校の同級生3人のうちの一人なんだ。瀬菜さんは中山舞さん、細川美久さんとクリスマスイブにやってきた。母さんは3年前に亡くなり、親父はアジアに単身赴任中で、家には家事の全くできない姉貴と僕の二人が住んでいる。

僕は長く苦しい受験勉強の果てに入学した大学を3ヶ月でやめて、その後1年近くプーたらしてから、今は会計の専門学校に通っている。

姉貴を含めたその4人の女子は全く料理ができない。ある日、姉貴は僕に料理を命令してきたんだけど、僕は家では、ほとんど使用人兼料理人の扱いで、要するに姉貴のオーダーは、専門学校の友達を呼んで家でクリスマスパーティをするから料理を作れということ。僕はその要望に応えた。やってきたのがその3人。

本当のことを言うと、実は僕は料理が大好きで、人様に料理を振る舞うチャンスが訪れたことを内心は楽しんでいたんだ。しかも女子が来るというので、心の内ではテンションバク上がりで、なにしろ2日前から自腹で食材を準備したぐらいだから。

もっとも姉貴が知った上で僕を利用したのは明白だけどね。とにかく女子受けするレシピをWebで片っ端から検索しまくって、献立をシミュレーションしたんだ。