【前回の記事を読む】「私、怖いの。わかるでしょ」「だけど、君を助けられなかったら」「申し訳ないけど、あなたも破滅するの」
第3話 最高のスープ
「なんとか今日中に仕上げてみます。必要量をメールしてください、あとお届け先の住所も」
「製品量で、500リットルだ。住所はあとでLINEしておく。横浜の中華街のそばだ」
「500リットル了解。希釈用の純水を用意しておくようにクライアントさんに伝えてください。明後日、展示会の撤収作業で幕張に行きますから、少し早く出て先に横浜に寄ります。湾岸を使えば幕張と横浜ってそんな時間かかんないですよね? まあ展示会が終わるのは16時だし大丈夫でしょう」
「頼む。気をつけてな」
玲蓮と里見は、昨夜と同じホテルにいた。
「ねえ、どうやって料亭の味を再現するの?」
玲蓮は少し甘えるような表情で里見に問う。里見は自分の清廉を表現したいのか、あえて技術的な回答で答える。
「まずアナライザーで主要な成分を分析する。特にアミノ酸を。料亭のだし味は、鰹節や昆布の種類や取り方、量で違ってくる、同じ材料を使ってもね」
「重なると旨味が増すのは知ってるわ」
「だけど分解すると大まかな組み合わせがわかる。イノシン酸、コハク酸、グルタミン酸とね。何種もの旨味成分にあるアミノ酸や核酸を集める」
「集める?」今や、里見と親密な仲となった玲蓮は目元優しく質問を続けた。
「実は僕の会社では、アミノ酸類は協力企業から調達している。醤油メーカーや酒造会社からね。ビール酵母とかは優れモノだからね、自社では作らない」
「自分たちで製造しているんじゃないの?」
「当社の強みは、AIを用いて組み合わせることができるってこと」
「同じモノになるの?」
「そうはならない。ただ成分量を同じにしても同じにはならない、人口の数%ぐらいだけど、世の中には微妙な味の違いに気づく人がいる」
「どうするの、長老たちはみんな食通よ。その数%よ」
「AIが、人間が同じに感じるように調整する、それが当社の技術」
「調整?」
「そう、実際の成分と違っても、人間が同じ味と感じるようにできる」
「大丈夫?」
「人間にはわからないはず」
「本当」
「それに料理にする段階で、海老とか羊とか足すんだろ。そうなれば、もう完全にわからないね」