その人は、〝愛の家〟っていう孤児院をやってる人でね。その日のうちに、そこに連れていかれて生活を始めたの。皆親切で、本当に幸せだったわ。ご縁というのは、本当に不思議で有り難いものだと思ったわ。

そうそう、その軍人さんが私とへいちゃんにキャンデーをくれて……。ほっぺたが落ちそうなほど美味しかったわ」

ふくちゃんは当時を思い出すように、穏やかな笑みを浮かべた。

「だから、店の名前を〝キャンデー〟にしたの?」

僕が聞くとふくちゃんは、「ふふふっ」と少女のように笑った。

自分が浮浪児だったことを、ずっと話せずにいたのだと言って、涙を浮かべながら子猫と寝室に入っていった。

ふくちゃんの話を聞いた僕は、前世の夢では見ていない戦後の実状を知り、衝撃を受けた。

大きな傷跡を残したのは戦地で戦っていた者だけではない。むしろ、愛する人を断腸の想いで戦地へ見送った人々もまた、自分たちの国で想像を絶する被害に遭い、生き残った者でさえも、一生心に残る深い傷を背負わされている。

一九四五年三月九日、警戒警報が鳴ったのは二十二時三十分のことである。

そして翌十日、深夜零時八分、約三百機のB29爆撃機が東京の上空から一斉に、焼夷弾を投下した。

その焼夷弾は、M69(小型の油脂焼夷弾)を三十八本まとめたE46を集束焼夷弾としてB29に搭載されたものだ。この日は約三十二万本が落とされた。

次回更新は6月22日(日)、21時の予定です。

 

👉『虹色の魂』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「今日で最後にしましょ」不倫相手と別れた十か月後、二人目の子供が生まれた…。W不倫の夫婦の秘密にまみれた家族関係とは

【注目記事】流産を繰り返し、42歳、不妊治療の末ようやく授かった第二子。発達の異常はない。だが、直感で「この子は何か違う」と…