「戦争に負けたことで、日本は混乱状態だったのよ。大人たちも全てを失って、自分が生きていくだけで精一杯。後で知ったけど、第二次世界大戦で路頭に迷った戦災孤児は日本中に十二万人以上もいたのよ。警察も手に負えないわよ。

上野駅で子供同士、助け合いながら生き延びるしかなかった。捕獲された野犬みたいにトラックに積まれて施設に送られた子もいたけど、施設で酷い目に遭って結局、上野に戻ってきたわ。

どこへ行っても捨て犬や野良猫みたいに、『しっ、しっ、あっち行け!』って追いやられたわ。ごみ箱の残飯を漁ってたから、犬や猫と変わらなかったけどね……。ああ、喉が渇いたわ」

ふくちゃんは喉をさすりながらお茶を一気に飲み干した。

「残飯なんか食べて、大丈夫だったの?」

僕が急須のお茶を注ぐと、「わたしも歳ね。長く話すとすぐに喉が渇くわ。戦後七十八年近く経つんだから、当たり前ね」と、お茶を一口飲み、話を続ける。

「当時は、残飯でも食べられたら幸せだったわ。食べる物がなくて餓死する子もいたし、腐った物を食べて食中毒で苦しみながら逝ってしまう子もいたけど……。

そうそう、特別仲良くしてた子がいてね。年の頃は、わたしより小さかったから四、五歳ぐらいかしら。〝へいちゃん〟って言ってね。弟みたいに面倒をみてたの。たとえ食べる物が半分になっても、二人でいると楽しくて、寂しくなくて、寝る時も温かく感じられて……。

でも、お母さんが迎えに来てお別れしたけど、たまに会いたくなるのよ。元気でいてくれたらいいけど」

ふくちゃんは子猫を膝にのせ、優しい笑みを浮かべる。

「その後もずっと、一人で地下道にいたの?」

「それがね、へいちゃんがどこからか連れてきた軍人さんがいてね。へいちゃんと別れてから、今度はその軍人さんと一緒にいたの。そしたら、優しいおばさんが現れてね。