笑いながら、玲蓮は突き当たりのステンレスのドアを押し開けた。

「これよ、見て」

ステンレス張りの明るく清潔な大きな部屋の中心に、背丈ほどのステンレススチール製の筒が2本ある。周囲はステンレスの格子が組まれ、上部を覗き込める高さにまでステップがあり、それぞれの円筒の下部には加熱装置のようなものが見えた。

「タンクか?」里見が尋ねた。

「大きいけどもIH鍋よ、業務用の電磁調理器を組み込んだ大鍋」

「二つある」

「そうよ、赤鍋と白鍋」

「そうか」里見は先ほどの二つのスープの試飲を思い出した。

鍋に熱気は感じられない、今は止まっているようだ。

「二つの鍋とも、今は中身は空。清掃も終わってる」

「それで」

里見は玲蓮の意図を知りたかった。

「ねえ、何年も火を絶やさない鍋の話を知ってる?」

突然、玲蓮が里見を見据えて切り出した。

「昔、何かな、エッセイか何かで読んだ記憶がある」

「中国で、火を止めず煮え続ける鍋の話。開口建のエッセイよ。減った分だけ食材が足され、延々と数世代火を絶やさずに沸き立つ鍋の話。それがこれ」

玲蓮は冷えたステンレスの大鍋に手を当てた。

背丈ほどある鍋を見て、里見は疑問を感じた。