里見はタンブラーの水で口を濯(すす)ぐと、続いて赤いコースターの上にあるカップのスープを試してみた。

キノコ類の香りを感じた。味は濃いコンソメスープに近いが、透明感はなく赤茶色に濁っている。白とは全く違う旨味がある。混然としているようで一体として成り立っている。最初の舌触りは軽いが、舌の周囲で重層した味を感じた。比較できる旨味がない。

白いスープが多様なパートの重奏なら、赤いスープは肉のエキスの分子が結合し、熟成したような味わいがあった。

「いかが」玲蓮が試問するように里見に問う。

「驚きの味だね、複雑さは表現のしようがないけど、全体として纏(まと)まっている」

「この二つが最高のスープ」

「味としては両方ともすごいけど、具は何を加える? これだけだと料理として完成していない」

玲蓮はうなずいて説明した。

「これにその年の食材を足すの。今年は、白にはブルターニュのオマール海老、赤には北海道のサフォーク種の羊肉を合わせる予定。来週月曜には空輸されるけど、その食事会の最初はスープの試飲から始まるの」

スープに感嘆して赤白味比べしている里見に、玲蓮が真剣な表情で次の器を指して促した。

「グレーと黒も味をみて」

里見は慎重にグレーと黒のスープを試した。

「これらも美味しい。だけど少し何かが違う。白赤と比べて、こちらのほうが何か品がないというか、何か余分な酸味というか」