玲蓮の目はさらに厳しく里見を促す。

「香りに集中してみて」

「うーん、かすかにコゲ臭がある」

「さすが、ご名答。アルバイトたちには見分けがつかないけど」

「それで、これがどうした」

「当たってしまった。鍋の側面でコガしたの。これは、もう出せない」

「僕が最初に口にした白赤は?」

玲蓮は下を向いて答えた。先ほどまでの厳しい表情が一転、困惑するような悲しい表情に変わった。

「あれは料理途中の試飲用で、わずかしかないの」

「作りなおしたら」

「それができないの」

「レシピがないのか」

「それもあるけど、別の理由。来て」

玲蓮は里見を誘った。

厨房のある二つ目の部屋のパントリーを素通りして、次のドアを開けた。階段室になっていて大きな螺旋階段が階下につながっている。

下り切った先のホールにある厳重なドアを開ける。一転してステンレス張りの壁面、通路の床は白タイル、天井は白色パネル照明になっていた。玲蓮は無言で進んでいく、少し進むと壁一面に、上下2段整然とハッチが並んでいる。

次回更新は6月22日(日)、22時の予定です。

 

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