第一章 青天霹靂 あと377日

二〇一五年

十一月二十一日(土) 神経内科、吉田医師の説明

「半年……? それじゃ今日から、今すぐにでも治療を始めなくてはという事ですよね ……」

「現時点において、原発がどこであるか……、つまり正体が判っていない以上、治療どころか薬一つ決められないんです」

「それはもっともでしょうけれど、こちらに入院してから二週間、高瀬病院で最初の検査をしてから既に三週間が経っています。と言うことは、日に日に腫瘍は大きくなっているわけですよね。それなら、そんな悠長な事は……」

何もしないまま病魔は母の体内でどんどんと育っている……、そう思った時、その怒りを誰にぶつければ良いのだろうかと、やり場のない気持ちを抑えるのに往生していた。

「こうしたものは、それほど短期間で著しく肥大するという事はありません。それに、最初に撮ったMRI画像を見ると、当院に来られた時点で既に難しい状況だったという事は確かです。ですから、もし、入院の翌日から放射線か何かの治療を始めていたとしても、おそらく結論は同じだったでしょう。

それであるなら、ここはじっくり情報を集め、副作用や苦痛の度合いを予測して……、結果としての寿命がどうなるか。それを見極める時間が必要です」

吉田医師の説明は的確で解りやすいが、その淡々とした言葉が私の悲しみを更に深くさせていた。

「よく理解できました……。しかし、こんなになるまで、なんで分からなかったんでしょうね。今さら詮ない事ですけど、やっぱり悔いは否めません……」

ついに耐えていた涙が堰を切ってこぼれ落ちた。

「ガンというのはあまり痛みが出ないんです。だから、何の症状もないまま、頭もお腹も広がっていってしまうものなんですよ」

まさに五里霧中……。私はしばし言葉を失い、暫時の空白が過ぎた。