丙午と野良猫記

今も忘れもしない。

ある夏の夕飯時の事である。七月の午後七時半頃で、とても暑い日だった。

当時、小学四年生の娘と二年生の息子と私の三人で、夕飯に大好きなサーモンを食べようとしていた。我が家は刺身が好きなので、何か良い事があった日や無性に刺身が食べたくなった時は、いつもサーモンを買って食べた。三人で刺身を目の前にして

「いっただっきまーーす」

と、元気に箸をつけたその瞬間、頭上の二階で「ドカッ」と、ものすごい音がして、その後「ドドドドド……」と、誰かが入ってきた音がした。

我が家は一九七六年(昭和五十一年)建築、日本瓦屋根の二階建てで、夫の亡くなった両親が建てた。夏の暑い日は二階は網戸にして、鍵はかけずに開けたままにしていた。再び、

「ドドドドドッ……。ドカッ、ドカッ」

と、大きな音がした。

すぐさま頭に浮かんだのは、(二階に泥棒が入ったのでは!!)。せっかく美味しくサーモンをいただこうと思っていたのに。

「こわ~~い。どうする??」

と子供達。

私は箸を置き、意を決して二階に上がる事にした。(どうしよう……。泥棒と鉢合わせたら)。怖くてしょうがないが、玄関と階段の電気をつけて、恐る恐る二階へと上がってみた。最初に応接室兼息子の部屋の電気をつけた。その先の和室の娘の部屋の電気もつけた。最後に夫の部屋の電気もつけた。

「誰もいないし!!」

部屋が荒らされて、何かを盗まれているわけでもない。あのドカドカいっていた大きな音はいったい何だったの!?と思いながら下に降りていった。

娘と息子は恐々とテーブルの前に座って待っていた。

「泥棒はいたの??」

と、二人に聞かれた。

「誰もいないんだよ。何も盗られてないし、いったい何の音だったんだろう?」

まあ、泥棒ではない事がわかったので、気を取り直して三人で夕飯を食べる事にした。