【前回の記事を読む】夏、決まってお参りに来る爺さんにわけを聞く。「捨てられた分隊だったんですよ」と悔しい目で、仏壇の上にかけてある遺影を見た。

Ore Joe! 俺たちの青春

「私は、動ける将兵二十三人を連れて、転身しました。分隊は百三十人いたが、そのほとんどは戦死してしまっていました」

「やっと歩ける兵隊を、叱咤激励して転身しましたが、かすかにしか残っていない生命の灯は、十メートル歩くごとに、物が落ちるような音を出して、地面に堕ちていった。誰も、自分以外を助ける気力は残っていなかった」

「ほとんどの者が、歩くのが精いっぱいだった」

這い崩れるようにして後方司令部に着いたとき、後ろを見ると三人しかいなかった。

「一緒にいた二十人ほどが、どこかの場所で果てていったのでしょう」

「私は後方司令部で、分隊長を待ちましたが、分隊長は帰ってくることはありませんでした。私は分隊長に命を救われたのです」

爺さんは、人目もかまわず、すすり泣いた。口惜しさと怒りが満ちていた。

「無謀な戦いで、勝ち目のない戦い。インパール作戦をしいられた我々、日本軍将兵。何のために戦ったのかわからない。そんな無意味で残酷な戦いでした」

三人は、いつまでも話すのだった。この日、ヨシオは爺さんが来ることは分かっていた。じつは、ヨシオは、この爺さんを前から知っていた。

爺さんはヨシオのガールフレンドの希恵のお爺さんだった。この時、ヨシオは二階で、ステップワークをして、胴回し回転蹴りをしていたのだが、父母たちの会話に気が散ってしまっていたせいか、バランスを崩し、背中から襖にぶち当たってしまった。

床の基礎の骨組みが折れるような音と、襖紙の破れる音が、あたりに響いた。二階から雷が落ちたような音とともに、ヨシオの悲鳴が上がっていた。

「馬鹿野郎!」

すぐさま、親父が、大きな声を出して、二階に駆け上がってきた。いつものように、ハエの止まるような蹴りとパンチで、ヨシオを襲ってきた。

ヨシオは、反省の意味で、甘んじて右のストレートを左ほおに受けた。全然痛くなかった。

「黙っているんじゃなくて、声を出して、謝れ」

そう、親父が言うので、

「すいません!」

ヨシオは直立不動になり大きな声で謝った。

親父は、目で、諭すように威嚇すると、一階に降りて行った。「どうもすいません。息子は馬鹿な、暴れん坊で」

そう言うと、

「今の若いのは、少し暴れん坊ぐらいのほうがいいですよ。それよりも、私たちは、何のために、戦ったかわからない。それが本当に悔しいんです」

そう言って、その爺さんは、年齢からくる、丸くなった背中を見せながら帰っていった。