Ore Joe! 俺たちの青春
わたしの生まれた家は旧家だった。私の家は、前にあるお寺より大きかった。大きな仏壇の上には、軍服を着た三世代前のこの家の元主の若い将校が、セピア色の写真で飾ってある。
お爺さんである。南方戦線で亡くなった。今、この日本では戦争は起こっていない。
十七歳の自分にとって、戦争は遠い昔のことでしかない。
ここ最近、雨が降らない。
記録的な暑さが続いている。エアコンをつけないと生きていけないのかと思うくらい暑い。そんななか、窓を閉め切って、電気は全てOFFにしてある。部屋の中は四十度を越えているだろう。
ヨシオはシャドーでパンチ、キックのコンビネーションを繰り返している。ヨシオは今日も、部屋から一歩も出ていない。去年までは、海に出かけていたのだが、今のヨシオには、いつもの夏はない。
いやというほど体をしごいてゆく。汗が腕、足から湧き出てくる。
ヨシオの二階の部屋から見える通行人に、ヨシオは顔面をガードして構える。所かまわず通行人の一人一人に強打をみまってゆく。外から見たら、皆なんだと思うだろうか。空手は小学校からつづけていた。中学校で一時やめたが、高校に入ってからは、空手の部活に入っていた。
ヨシオは生きる目的が分からなかった。まもなく終わるであろう高校。進路も何一つ決められなかった。
思い起こせば、「ヨシオ。お前は将来なにになるんだ」まだ、小学校に行かない頃から、こんなことをよく聞かれた。
そう言われると、ヨシオは決まって、相手の顔をまじまじと見つめる。見た感じが、そんなに、金持ちに見えないし、近所のおじさんなので、どのような仕事をしているか、大体わかったが……。
ただ、自分の家から歩ける範囲の情報なので、六歳のヨシオに、相手が見切れることはなかった。
ヨシオは、そう言われると、相手が喜び、希望する仕事に合わせることにしていた。
「漁師か。学校の先生か。会社の社長か。それとも、俺と同じお百姓さんかい?」
そう言われると、決まってヨシオは、「お百姓さんになりたい」そう言うことにしている。
すると、相手は九割がた喜ぶ。ただ、残り一割は、「ただ、俺は好きでお百姓さんをやってたわけではなかったんだよ」と言う。
それから、相手は、ヨシオの頭をなでながら、いつも、こう言う。
「自分の好きなことをやりなさい」