【前回の記事を読む】親父は何故「あしたのジョー」に魅せられたのだろう。ファイティングポーズをとった自分は何に見えるだろうか…

Ore Joe! 俺たちの青春

日常の生活の中で、天井に貼ってあるジョーのポスターが、不思議と脳裏に表れてくる。あの眩しい、そして、神々しい白い世界が現れる。あれはいったいなんなんだ。

リング一帯の風景が真っ白なんだ。

そんな時、何かに立ち向かうように本能で、ヨシオは手を顔面に添えて、ガードをとる。

ヨシオは、周囲を見回す。 ヨシオはなにかに取りつかれたように、キックと、パンチを嵐のように見舞いつづける。

息が苦しい。

暴れ狂った後には、燃え尽きた白い炭のようになったヨシオが、床に転がっている。

いつも、こうだった。

二階に上がってくる、お袋の足音が聞こえた。

「いつまでも閉じこもっていないで、少し表でも出たらどうなの」

「ほんとに、熱中症になるわよ」

お袋が、眉をひそめて、そう言いながら、コーラを持って入ってきた。

「どうして、こんなことになってしまったのかな」

お袋は寂しそうに目を細めて呟いた。

ヨシオは返答に困り、宙を見つめた。

ただ生きながらえている。

そんな気持ちだ。

「何でお前、一点を見つめたまま動かないの」

お袋が、ヨシオを見つめたまま寂しそうに言った。

ヨシオは動かないと言うより、考えることもめんどくさい。言われれば言われるほど、お袋のことを拒否してしまう。ヨシオはそのまま数分動かなかった。

そんなヨシオを見て、お袋は、うなだれて一階に下りていった。

「また、ニートのように閉じこもってやがる」

親父が、あきれたように苛立つ声が聞こえた。

「あなたがキックボクシングのまねごとをしてたから。あなたの責任もあるからね」

「ちょっと待てよ。〝あしたのジョー〞と言ってくれ」

「何がジョーよ。いい加減にしなさいよ」

お袋はそう言うと、仏壇に行って手を合わせた。

なにか、問題があると、いつもお袋はこうだった。 仏壇の上には、セピア色になった爺さんの写真がかけてある。