【前回の記事を読む】親に言われて仕方なく勉強していた僕。中学校の野球部と近所の女の子への思いを胸に、受験勉強に励み始める――

第1編 野球との出会い

1回裏 大失態の初ホームラン

そんな、こんな、しているうちに中学受験の時が迫っていた。たった一回の中学受験、合格の競争率は相当のものだ。優秀な人たちが挑戦する中、上位二割ぐらいには入らないと合格できない。運を天に任せるしかない。

中学受験の日の前日、僕は体調に異変を感じ、寒気を覚えた。家に帰って熱を測ると平熱を超えていて風邪をひいてしまっていた。運が悪い。夕刻、近所の医者に行き風邪薬をもらって、夕飯後に薬を飲んで寝た。「薬を飲めば大丈夫」と母に言われ、僕はそれを信じるしかなかった。

翌朝目が覚めた時には、熱も引いたようで体調はほぼ問題なかった。姉は心配そうな顔で「大丈夫?」と声を掛けてくれる。

兄も「やるだけやってこい!」と励ましてくれた。

僕は、母と二人で受験する学校へと向かう。一日置いた、二月三日が合格発表の日で、兄が見に行ってくれた。僕は、正直に言って、あまり自信はなかった。その日も普段と同じように学校に行き、僕が家に帰ると、兄は既に家にいて、「受かっていた」と言った。

僕は、その時は、合格の自信もなかったので、「嘘だ。いいから、本当のことを言ってくれ」と兄に言う。

すると、母も「受かっていたよ。本当に!」と言って、合格証を見せてくれた。

本当に合格していた。姉も笑顔で「おめでとう、ジョニー」と言ってくれた。嬉しかった。嬉しさのあまり、涙が少し出ていた。

僕は、ちょっとだけ運が良かったのだ。そんなことは誰にも言わなかったが、「この運を生かすぞ」とだけ思った。