【前回の記事を読む】王や長嶋選手に憧れて…ファースト、サードは人気でも、キャッチャーになりたがる球児はいない?
第1編 野球との出会い
2回表 出会い
キャッチャーでもどこでも、試合に出たいと思っていた僕は「わかりました。いいですよ」と言ってキャッチャーのポジションに入った。トムと言い合わせていた通りだった。
「それではノックを始める。皆、ボールを捕ったらバックホーム、そう、キャッチャーにボールを投げ返してください」顧問の先生がそう言うと、それぞれの野手にボールを打ち、野手は捕球すると、キャッチャーの僕に投げ返した。
キャッチャーをやった僕が、誰よりも多くボールに触った。
「このまま、キャッチャーに誰もなり手がいなかったら、僕はレギュラーになって打席に立てる」
とにかく、試合に出るにはレギュラーをまずは掴むことだと考えた。そのためにはキャッチャーのポジションが、一番可能性が高いかもしれない、と、やや打算的かもしれないが、子供ながらに考えていた。
中学一年生でまだ下積みの段階。試合に出ることもないし、バッティング練習も守備練習も先輩たちの半分もやらせてもらえない。時には、球拾いのみということもあった。
それでも腐らず前向きに、毎日のキャッチボールやトスバッティングの基礎練習を大事に、丁寧に行った。
先輩や監督にとやかく言われるよりも先に、率先して雑務や練習に取り組んだ。辛い練習も笑顔で明るく頑張ることに喜びを見出していた。僕ら仲間は、どんな日も誰にも負けずに一生懸命にやることが好きだった。