【前回の記事を読む】「薬を飲めば大丈夫」と言う母。僕はそれを信じるしかなかった。――受験前日、体調に異変を感じ、寒気を覚えた。熱を測ると…
第1編 野球との出会い
2回表 出会い
春が来て、小学校を卒業すると私立の男子校へ進学した。
「その男子校に行けば、何でも好きなクラブ活動に入部していい」という親との約束があった。
僕は、野球部に入って思いっきりバットを振れる環境に行きたいとだけ考えていた。
バットを思いっきり振って野球をしたいという思いと、近所の一つ年下の美少女の気を惹こうという思いで、僕は勉強に精を出し中学受験をクリアしたわけだ。
しかし、電車に乗って通学する身になると、小学生の時に一緒だった周りの子たちとは時間も合わず、周囲の友達付き合いは薄れて、近所の美少女の顔を見る機会もほとんどなくなってしまった。
中学一年生は、少しの間を置かないとクラブ活動を始めることができない決まりだったが、僕は野球部に入部することを自分の心の中で決めていた。そのためにこの学校に入ったようなものだから。
中学一年のクラスでは、それぞれの家の場所や帰る方向で、担任の先生が既に五人から六人の班を作ってくれていた。班は、一班から十班まであり、僕は九班に配属された。その班には僕を含めて五人のクラスメイトがいた。
「それでは、まずは、それぞれの班の中で自己紹介をし合って、そのあと、班長と副班長を決めるように」担任の先生が言う。
「よし! じゃあ、自己紹介だ! オレの名前は、スズキツトム。野球が好きで、小学生の時はリトルリーグのチームに入っていた。野球部に入る。好きな食べ物は鶏の唐揚げだ」と、九班に配属されたスズキという男が挨拶した。
「じゃあ、次はキミ!」と僕はスズキに指名された。