「はい」
「大丈夫?」
「うん、何とか生きてる」
「あのさ、今夜、花火大会だろ。経子さんが梨杏に浴衣を着せるからそれを一緒に見てほしいって言うんだ。来ないか?」
「行きたいけど私が行ってまた何かあったらもうおしまいよ」
「分かってる。でも俺とずっと一緒にいればいい。そうすれば何かあっても俺がお前の無実を証明できる。それに・・・・・・俺は一夏と一緒に花火が見たいんだ」
彼女はしばらく黙り込んでいたが、ようやく返事を返した。
「分かった。行くわ」
電話を切ると、海智はレースのカーテンを開けて南側の窓から外の景色を覗いた。
病院の南側にはちょっとした住宅地が広がっているが、その向こうはもう黄色い砂浜の海岸である。夏の深い瑠璃色の海が形作る水平線の上に巨大な要塞のような層積雲が優雅に浮かんでいる。
砂浜は東西にしばらく広がっているが、東側は北側の山地から緩やかに続く稜線がそのまま海に突き出して岬を形成しており、海岸線はそれによって突然断ち切られている。毎年花火大会の夜、海上に打ち上げられる花火を見るために、観客はこの古浜海岸と双亀岬に押し寄せる。
この病気になって人混みを避けるようになってから長年遠ざかっていたが、いつか健康になってこの花火を再び眺めることを海智はずっと夢見ていた。だから今年は一夏とこの特等席で花火を見るんだとしばらく前から心に決めていた。その後はどうなるか分からない。
でも、彼は自分の気持ちを彼女に伝えようと決心していた。彼女の存在がいつの間にか彼の唯一の心の支えになっていた。だから、追い詰められている彼女を何とか支えたい。救いたい。それが今彼にできるたった一つの生き甲斐であった。