頭が切れる。さすがに、ここまで会社を成長させただけのことはあると田所は感じ入った。これ以上、ごまかしは利かない。田所は腹をくくらざるを得なかった。
「はい。もう一つ是非お訊きしたいことがありまして。ご存知なかったようですが、実は亡くなられた国枝社長、お嬢さんのことを大変気に入られていたようで、お二人はだいぶ親密にしておられたようなんです」
飯島社長が眉根を寄せた。
「やはり、娘に何か疑いがかかっているんですね?」
「いや。最初から正直にお話をすればよかったんですが、まだ公には出来ませんので。実は、本件には既に被疑者が浮かんでおりまして、今、その詰めの捜査に入っております。その外堀を埋めるためにも、国枝社長と近しい人は最後の一人まで徹底して調査をしているところなんです。
お嬢さんご本人に疑いがかかっているわけではないですが、お嬢さんも国枝社長に気に入られて個人的にもお付き合いがあったようですので、ここまでお話を伺いにきた次第なんです」
「なるほど。それで、訊きたいというのはどういうことでしょう」
飯島社長は、腑に落ちない様子のまま言った。
「ええと、その前に。お嬢さん、何かご病気があったんでしょうか?」
「えっ。それ、いったいどういう関係があるんですか?」
「あ、いや。直接は関係ない話ですが。そもそも、本件は相当体力のある男性の犯行で、その点からもお嬢さんに関係ない事件ですが、それにしても、お嬢さんが華奢で弱々しそうに見えたものですから」
「何か、聞かれているんじゃないですか?」
「どういうことでしょう」
「もう分かった上でお訊きになっているんじゃないですか? 体が弱そうだなどとかまをかけていらっしゃるんでしょう。後でとやかく言われても困りますので、申し上げますが、確かに、あの子は子供の頃病院通いをしていました。本当はご存知だったんでしょう?」
次回更新は6月1日(日)、22時の予定です。
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