そんな状況でも就職前にお話しした先輩スタッフが、いつも私の体調や働き方を気にかけていただけたからこそ全力で働くことができていました。本当に何度も助けていただき感謝してもしきれないくらいです。

しかし、病気のコントロールに関しては、現場スタッフの協力なしにはできないという点は変わりません。働いていくうちに、少しの協力や配慮も忙しい介護現場で働くスタッフの方々にとっては負担となり、最初は協力して行えていたイベントにも否定的な意見が出るようになってきました。

以前の職場で私が経験した苦労があるからこそ、スタッフの働きやすい環境を人一倍大切にして取り組んできたつもりでしたが、やはり病気に対する協力を必要とする点は無視することはできませんでした。

そんな日々が続き、スタッフの退職、事業所の売り上げ低下、スタッフの負担増加と負の連鎖が続きました。当然、私の心と身体も影響を受け始めていました。

ちょうど同じ頃、ナルコレプシーに関する本の自費出版に挑戦しました。タイトルは『ナルコレプシーのこと―僕の人生の場合―』です。この挑戦が再びターニングポイントとなりました。

この自費出版に挑戦しようと決めた理由は二つあります。

一つは、自分がナルコレプシーと向き合っているという姿勢を手に取れるカタチとして表現したかったことです。口ではいくらでも向き合っていると伝えることはできますが、これまで「本当にしっかり寝ているのか?」「本当は怠けているのでは?」と言われることが何度もありました。そうならないためにも、向き合う姿勢をカタチで表現することにこだわりました。本を出すということの持つイメージから、きっと向き合っている姿勢が他者に伝わると考えたためです。

もう一つは本を書くためには、これまでの人生の振り返りや自己分析、ナルコレプシーの知識などが必要になってきます。それがこれまで以上に自分と向き合うきっかけになると考えたからです。大学生の頃の自己分析とは比べ物にならないくらい、向き合いました。良いことも悪いことも含め、思いつく限り紙に書き出して、自分のことを掘り下げていきました。

この出版は自分のこと、ナルコレプシーのことをより深く理解する上でも、本当に良い機会となっただけでなく、企画からデザイン、販売に至るまでの経験を通じて理学療法士以外の世界を知ることができ、私の視野を広げてくれました。事前にブログを始めたり、SNSで毎日のように投稿したりと考えつくことは全てチャレンジし、完成した本は見事に完売することができました。

さらに、その本を通じて知り合った方々とは、今でも続く貴重なつながりも生まれました。過眠症の患者会の一つであるNPO法人日本ナルコレプシー協会(以下、なるこ会)とも、本を出版することがきっかけとなり関わり始め、今ではなるこ会の理事を務めさせていただいています。

出版に挑戦したことで、病気を抱えているからこそ企業に勤めなければ生活ができないという考え方は変わり、ナルコレプシーを抱えていても様々な可能性があることに気づくことができました。この経験が独立を考えるきっかけとなりました。