はじめに
本書へようこそ、お越しいただきありがとうございます。こちらは本書をお読みになる前のトリセツ、取扱説明書です。
エッセイ、随筆というのは著者の体験や感想を述べる見聞録です。吉田兼好は思っている事や考えている事を『徒然草』に記しました。清少納言は「春はあけぼのが美しいと思います」というより、「春はあけぼの」と断言する方が訴える力が大きく効果があると感じたのでしょう。
随筆は演説と似ているかもしれません。会話であれば相手の反応を見ながら「私の考えは間違っていたのかな」と思い、話し手は自分の立ち位置を確認出来ます。一方通行のエッセイではそれが出来ないのでリスクが大きいと言えるでしょう。もし違和感があるなら、
(1)意見をはっきり言うのは日本文化では敬遠されます。国会中継を見ると議員達は遠回しな発言をします。アメリカ大統領候補者の演説を聞くと、「思われる」に該当する「I think」や「It seems」「Maybe」の表現がない事に気付きます。
(2)演説や討論の授業が殆どなく、日本人が議論慣れしていない事があるかもしれません。読者が著者の意見に賛同出来ないのであれば、同意しない理由を考えてみて下さい。
(3)私の様な実績のない人が発言しても効力がないからでしょう。肩書きがある立場の人々、著名なジャーナリストや評論家というのは社会の中で一目置かれる存在なのです。しかし私の様な一般庶民だから見える要素もあります。
社会を持続させる為の栄養に本書がなる事を願ってやみません。暫く私のエッセイにお付き合い下さい。
第1部 学び働く
一 学問のすすめ
引田(ひけた)城曲輪(くるわ)埋める落葉かな
2019年12月、香川県東かがわ市の女性ガイドが戦国時代初期の山城を案内して下さいました。足がズブリと沈むほど落葉は積もっていて、山道の途中にある、開けた明るい所に出ると薄曇りの空の下に塩田跡地が見えました。
「この後どちらをまわりますか?」
「明後日は丸亀城を見て、その後は愛媛、高知に行き30日にフェリーで東京へ帰ります」
「今回の旅の目的は」
「学生の頃、勉強しなかったので修学旅行をやり直しています」