確かに中学では秀才と評判の高かった蒼が三流の水山高校に入学したことは当時物笑いの種になっていたのである。海智も心の底では蒼の優秀さに嫉妬していたのかもしれない。積極的に彼を傷つけるようなことを言った覚えはないが、周囲の誹謗中傷に対して彼を敢えて弁護しなかったのも事実だった。
「さあどうだか。ま、今更そんなことどうでもいいけどな。今の俺とお前とじゃ比べようがない程人生の勝敗がついているんだからな」
そううそぶくと、蒼は海智に背を向けて病院の玄関へと歩き出した。
「蒼、お前、宇栄原桃加と付き合っているのか?」
唐突な海智の言葉に蒼は立ち止まった。
「は? 何それ」
「あいつが言っていた。お前に告白するつもりだって」
蒼は大声で笑いだした。
「はははははは、それであいつ、明日の花火大会に俺を誘ったのか。俺があんなゲスい女と付き合うわけないだろ。馬鹿にするな」
「あいつはお前に感謝しているって言っていたぞ」
「信永梨杏を虐めていたくせによくこの病院で働けるなってからかったら、泣き出すもんだからしょうがなく話を聞いてやっただけだ。よくそのくらいで勘違いできるな。思い上がりもいいところだ」
「じゃあ花火大会は断るのか?」
「いいや、行ってやるさ。あの女が俺に振られた時にどんな惨めな顔をするのか見物じゃないか。せっかくだから楽しませてもらうさ」
何て悪趣味な奴なんだと呆れながら海智は彼の背中を見送った。入れ替わりに玄関から金清が病衣姿のままで海智の方へやってきた。
次回更新は5月25日(日)、11時の予定です。
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