(薄々そうかもしれないとは思っていたが、いや、自分は精神力は強いはずだと自分に言い聞かせてきてここまでやってきたのに、一夏にどう説明したらいいだろう。彼女も心の支えが必要な状況なのに、自分がこんなではあまりにも不甲斐ない)

尚更重くなった体を引き摺って、一階で入院費用の説明を受けた後、ロビーの椅子で彼が一休みしていると、正面玄関前の緑地の中の白いベンチに座って缶コーヒーを飲んでいる蒼に気付いた。

嫌な奴だ、知るもんかと思ったが、自分でもどういう風の吹き回しか、いつの間にか海智は立ち上がってベンチの方に歩いていった。目の前に海智が立つと蒼は睨むようにして彼を見上げたが、すぐに顔を背けた。

「何か用か」

「石破一夏は犯人じゃない」

「お前、まだ信永梨杏の生霊が二人を殺したと思っているのか? どう考えたってあの看護師が殺ったに決まってんだろ。お前、あの女と付き合ってんのか? やめとけ、あいつはその内逮捕されるぞ」

「いや、俺が真犯人を捕まえる」

海智の言葉に蒼は失笑した。

「お前、本当にミステリーの読み過ぎで頭おかしくなったんだな。付き合っていられないわ」

そう言うと蒼は腰を上げ、その場を立ち去ろうとした。

「待て、お前、何で俺にそんな態度をとるんだ? 中学の頃は親友だと思っていたのに高校になってから何で俺のことを無視するようになったんだ」

蒼は蔑むような目つきで海智の顔を見た。

「自分の胸に訊いてみろ。お前、高校で俺の悪口を散々他人に触れ回っていたそうじゃないか。それを聞いた時からこっちはとっくにお前とは縁を切ったつもりだ」

「俺はそんなことは言っていない!」

海智はそう断言したものの、内心、蒼のいない所で友人達に何かしら彼に関する冗談でも言ったかしらと慌てて記憶を探っていた。