「あ、それで、一緒に連れてきた人がいるの」真琴は助手席に目を向ける。

「あの、彼女なんだけど……」

助手席には先ほど病院で見掛けたボブの女性が座っていた。真琴が促すと女性も車から降りてきた。小柄だが、とても綺麗な女性だった。

「パパの会社の人なの」

「はじめまして……広田千尋です」ボブの女性は自己紹介をしてきた。

「あの、わたし……真琴と同じ大学に通っている篠原あずみといいます」

どういう関連があるのか分からないが、この女性も深く関わっているらしい。

「ふたりともどうぞ。今、鍵を開けますね」あずみはふたりを案内した。

「お邪魔します!」

真琴は威勢よく中に入る。何度か来たことがあるのでそこは遠慮がない。反対に連れの女性のほうは、遠慮深げな様子で躊躇している。

「どうぞ。誰もいませんので」

あずみはその女性に嫌な印象は抱いていなかった。真琴もなついているようだし、品のよい大人しそうな女性だ。色が抜けるように白い。少し童顔なところが、また可愛らしい印象だった。

「それではお邪魔します」

女性も真琴のあとに続いて家の中に入った。真琴の家ほど立派な客間というものはないが形ばかりの応接室がある。そこにふたりを案内し、あずみはコーヒーを淹れに引っ込んだ。

「いいよぅ。何もいらないから。とりあえず急いで相談したいことがあるの」

真琴はコーヒーより早く本題に入って話したいらしい。差し迫った事情があるのか広田さんも緊張した表情で黙っている。

「分かった。でも飲み物だけ。ちょっと待ってね。すぐ行くから」

あずみは急いでコーヒーを淹れて応接室に戻った。

「それで?」コーヒーを出し終えて一呼吸したところで、あずみは臨戦態勢に入った。

「実はうちのお兄ちゃんのことなの……」

やっぱり、とあずみは思った。

 

👉『白い陥落~看護学生あずみの事件簿 2~』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「お前を抱きたい」そう言った次の瞬間彼は私の上にのしかかるようにして…

【注目記事】私の妹は、5年前に殺された。高校二年生だった。自宅のすぐ傍で車の中に引きずり込まれて、河川敷まで連れて行かれ…