【前回の記事を読む】防犯カメラが捉えた深夜のマンションを出入りする"謎の人物"――浮かび上がってきた三人の容疑者たち
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「なるほど。今のところ、この三人ですか。しかし、この飯島という女性はともかくとして、他の二人はマンションに入ったことは分かっているが、ガイシャの部屋に行ったかどうかは今のところ不明だし、マンションの住人の中にホシのいる可能性も残っているだろう。従って、この三人に絞るのはまだ早いんじゃないのか?」
植村管理官が草薙と宇佐見を交互に見て言った。
「もちろん、マンション住人の可能性はあります。ただ、このマンションは八邸のみの超高級マンションでして、皆さん相当社会的地位のある方ないし高齢者で、これまでの聴取や聞き込みでは、それぞれの家族も含めて可能性は極めて低いと判断しています。もちろん、予断なく捜査は進めますが、当該時間に出入りした人物で、住人以外のこの三人に絞っても良いかと考えております」
草薙が答えた。
「ところで、こんな高級マンションなら勝手に入ることは出来ないんでしょう。飯島めいという人は国枝さんと一緒に入ったようですが、後の二人はどのようにして入ったんですかね」
捜査は素人と思われている神保署長が、意外にポイントをついた疑問を遠慮なく口にした。
「あっ、はい。マンションの建物自体がオートロックになっております。外部の人間が建物に入るためには、まず正面玄関、裏口、いずれも入り口にあるタッチパネルに三桁の部屋番号、例えばガイシャの部屋ですと四〇二を入れ、画像モニター付きのインターフォンで訪問先を呼び出す必要があります。
その上で、訪問先の住人に解錠してもらって建物に入ることが出来ます。そこから各部屋に入るためには、さらに合鍵を使うか住人にドアを開けてもらう必要があります。建物の出入りは、夜間は防犯カメラの監視だけですが、日中は接遇とガードマンを兼ねた管理人が常駐しておりまして、その目もありセキュリティーについてはかなり厳重になっています。
ただ、住人の皆さんは、部屋の合鍵のヘッドに内蔵されたICチップのタッチでも、マンションのオートロックを解除して建物に入ることが出来るようになっています」
宇佐見に促された佐伯颯太という若い刑事が答えた。佐伯は、刑事歴三年目の若手で、宇佐見に負けないほどの偉丈夫だ。日頃から宇佐見に可愛がられている。
「二人ともその合鍵を持っているようで、防犯カメラでは、ICチップのタッチで入っていることが確認されています。そのため、ガイシャ宅のインターフォンのモニター画面に残るはずの訪問者の記録もありませんでした。ただ、こうしたことを考えますと、二人とも外部の人間ですが、住人とは近しいと言いますか相当親しい人物だと考えられます。こうした点も人物の特定に役立つと思います」
宇佐見がそう付け加えた。