「最初に言ったように、遺体の損傷の具合や室内が荒らされた様子もないことから、犯行はガイシャに相当の恨みを持つ人物によるもの、すなわち動機は怨恨によると考えていいだろう。
プロファイリングでは、もう一つ、ガイシャの損傷の具合から相当力のある人物、恐らく青壮年の男性となっているが、さらに、今報告のあったように、ガイシャとはもともと相当親しい関係にあった人物である可能性が高い。
ただ、犯行の推定時間の前後に、ガイシャの近くにいたことが分かっている飯島めいも引き続き捜査対象にすべきと考える。従って、当面、この三人に主力を投入することにする。今のところ手がかりのない第三の人物の人定に全力をあげること。
田代正樹についてはそろそろ任意聴取もいいだろう。その時期の判断は宇佐見刑事に任せる。飯島めいについては、徹底的にウラを取ってくれ。以上」
植村管理官の檄(げき)で、その日の報告連絡会議が終わった。
3
西城警察署で、飯島めいに二度目の事情聴取が行なわれることになった。国枝和子が殺害される直前に一緒にいた飯島は、今でも被疑者の一人として残っていた。
ただ、この十九歳の華奢 (きゃしゃ)な女性が、あれほど残忍で、しかも国枝和子が大柄であるだけに相当力も要するであろう殺害を実行したとは想像しにくかった。
しかも、事件の日、飯島が国枝和子の部屋を出る前後に、国枝は旅行会社と交信をしており、時間的に殺害の実行は不可能と考えられた。
そのため、先日行なわれた一回目の聴取は参考人聴取で、飯島は有力な情報を与えてくれる協力者としての扱いであった。
しかし、その聴取で飯島が度々国枝のマンションを訪れていたことが分かったことや、会社でも国枝と飯島が必要以上に仲睦まじかったという社員からの証言があったことなどから、愛憎が怨恨に繋がったという事件の可能性も捜査本部では疑い始めていた。
飯島が、前回とは違う取調室に案内されると、申し訳なさそうな様子で草薙刑事が書記役の堺刑事と待ち受けていた。部屋は違っても、取調室の様子は前と同じように殺風景で寒々としている。
次回更新は5月16日(金)、22時の予定です。