【前回の記事を読む】都内のマンションの一室で無残な姿で発見された女性の遺体。捜査本部は容疑者と思われる人物の特定を急ぐが…
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「こちらは今のところ身元が分かっておりません。しかし、映像がかなり鮮明ですので時間の問題かと思います。こちらは、先の田代正樹と思われる人物が二十二時八分から四十分足らずの滞在でマンションを出て行った後、二十三時三十五分にマンションに入り、翌朝五時十二分にマンションを出ております。時間的に見て最も犯人の可能性が高いと思われますので、主力を注いで確認を急いでおります」
宇佐見刑事に代わって、初動捜査で得た防犯カメラ映像の解析を進めている堺刑事が答えた。
堺は西城警察署捜査一課係長で、所轄署から特別捜査本部に吸い上げられた刑事であるが、事件発生地域の土地勘に通じていることから、一帯の防犯カメラ映像の解析を担当している。くたびれた背広に緩めたネクタイ。
一見だらしなさそうに見えるが、ITに詳しく、緻密な捜査に定評がある。
「そうすると、犯人は田代なにがしと思われる人物と、この二人目の人物に絞っていいんですね」
世間の耳目を集める事件でもあり、事件発生後、直ちに百二十名近くの捜査員を集めた特別捜査本部が立ち上げられた。
その捜査本部長を務める警視庁丸山敏郎刑事部長の横に座る神保征太郎西城警察署長が、防犯カメラから転写された二人の人物の写真を交互に見ながら、のんびりとした口調で堺刑事に問いかけた。
神保署長は、警察庁から赴任してきたばかりの若い警察官僚で、警視庁刑事部の小野寺実捜査第一課長と共にこの特別捜査本部副本部長を務めている。
やや肥満気味の体型で、丸顔に分厚いレンズの眼鏡をかけている。その風貌から決して切れ者には見えないが、抜群の成績で入庁した逸材といううわさであった。
ただ、こうした捜査現場の経験は皆無に近く、そのしきたりもよく知らない。特別捜査本部ではいわばお飾りのような存在であった。
「いや。もちろん、ガイシャと一緒に映っている女性の可能性も残っています。死亡推定時刻は二十一時以降となっていますが、冬期ですので死後変化の進みが遅いこともあり、実際の犯行時間は二十一時以前の可能性は十分にあるとのことです。
実際、居間のエアコンはオフになっており相当冷え込んでいましたので、二十時四十八分にマンションを出たこの女性にも可能性は残ります。こちらは、既に人物は特定出来ておりまして、飯島めい、カズコブランド社の針子です。
昨年四月に採用されていますが、国枝社長のお気に入りとのことで、秘書のような仕事もしており最近よくマンションに出入りしていたようです。
ただ、殺害方法が相当の力わざですので、女性には、ちょっと……。それと、国枝和子の携帯の交信記録から、飯島めいの犯行の可能性はないのではないかと」
堺刑事が答えた。