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最終日、八月になって最初の水曜日。いつものように朝八時半に集合、最後の準備をした時はさすがに話が弾んだ。今日は東大から見て本郷・お茶の水とは反対方向の上野・秋葉原あたりを攻めて有終の美を飾る。それから昼過ぎに東大構内に入り、近くの僕の行きつけの店で昼食をとり、赤門で記念写真を撮ってから営業所に戻る、ということになった。
上野・秋葉原は小さな店が集まっていて効率が良い上に人情が厚く、成功率はこれまでで最高となり、もっと早く攻めるべきだったと皆で残念がることになった。それで切り上げるのが大幅に遅れてしまい、東大本郷キャンパスに入るのが午後二時過ぎになった。
最後だからという理由で、石畳の三四郎坂を上って安田講堂の前に出て、そこから正門までまっすぐ、銀杏並木をみんなでブラブラ歩いた。
サキコさんとイチヘイは何か話しながら、ユミは時折止まって銀杏の大きな木を上の方まで眺めたりしながら、そして僕はそんな彼らを眺めながら黙って歩いた。明るい黄緑色の葉たちがさらさらと風に揺れて少し涼しい気がした。正門の手前で左に曲がり、総合図書館の横から史料編纂所の辺りまで、てんでんばらばらに広がってゆっくりと歩く。
史料編纂所は教育学部の建物の中にある。構内の大多数の建物と同じく褐色のタイル張りで由緒正しい感じの四角い建物だ。それを左に見ながら少し行くと赤門に辿り着く。
入学間もない四月の初め頃、両親と祖父母を伴って赤門をくぐりに来たことがある。正門から構内に入り今と同じ道を辿って赤門まで歩いた時、門のすぐ手前に立つソメイヨシノは満開で、僕と家族を幸せな気持ちにさせてくれた。
今は緑の葉をたくさんつけて、強すぎる太陽の光の下、暑さに耐えながら佇んでいるように見える。その桜の木の下を通って赤門から外に出た。
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