【前回の記事を読む】「東大合格すごいですね」と言われるが、入っただけじゃ大したことない。この話題が一番つらい。授業はさぼって図書館に入り浸り…

第一章 東京 赤い車の女

4

「東大の図書館ってね、赤い絨毯が敷き詰めてあるんだよ。まん中に大きな階段があってさ、そこにずーっと敷き詰めてある。昔ながらのオレンジ色の灯りが主流だからけっこう暗い。その厳粛な空間の中を三階から厳かに下ってくるんだ、赤絨毯をしっかりと踏みしめながらね、ゆっくりと、時には忙しく」

「そしてトイレに行くんだ」

と、僕は二人に向かって言った。ユミはこっちに向き直り、「何それー」と、手をたたいて大きな笑い声をあげた。そして、

「ヒロくんって脳天気だね」

と言った。

ユミを煙に巻く作戦は成功した。

「このレストラン、いつでもOKなの。大きなホテルでは珍しいよね」と小百合さんが言う。朝から晩まで、いわゆる「準備中」の時間帯がないのは素晴らしい、「東京ではめったにないね」と僕が言うと、

「毎日助かってるわ、このホテルにして良かった」とユミが言う。

「ずっとここなの?」と訊いたら、「そう」と答えた。

「安くないけど、バイトしながらだから、トントンよ」

リーダーの配当金は五割増しだし、ガソリン代は別だと聞いているから、なるほどちょうどいい具合かもしれない。

「しっかりしてるね」と言ったら、

「どこかの脳天気さんと一緒にしないでね」と言って、少し首を傾げた。

僕がカレーピラフ、小百合さんがスパゲッティ、ユミがサンドイッチ、そして三人ともアイスコーヒーを注文した。最初に出てきたフレンチドレッシングが掛かった野菜サラダを食べながら、

「最初の教養課程は高校の延長でしょ、東大でもそうなんですか?」と小百合さんが切り出した。