社会学、経済学、統計学、哲学等々、理科系の自分にとってはずいぶんと目新しい授業があるけれど、それらを一般教養として手当たり次第に受講して身につけようという気には、今はなれなかった。

理科系科目は確かに見かけ上は高校の延長だったけれど、受け身でいるうちに授業内容はみるみる難解なものになり、手に負えなくなるものがあった。例えば生化学が六十二点に帰結したように。

僕は少し時間を置いた後、「教養課程は面白くないですね、早く大学らしい授業を受けてみたいです」と答えた。

「東大らしいのを?」

「ええ、まあ……」

「サユリは何のお医者さんになるの?」

と、ユミが小百合さんに矛先を向ける。

「まだ全然わからない。漠然と医者って考えてたけど、入ってみたらずいぶん細分化してて……」

「今は内科で研修って言ったよね」とユミ。

「内科が基本だと思って応募したんだけど、内科といってもすっごくたくさん分かれてて、ほんと、何をしていきたいかなんて、まったくわからない状態よ」

「それより、医者になれるかどうかだって、全然保証されてない。こっちの方がよほど問題よ」

「どういうこと?」

「関門があるのよ、いくつも」

「今、授業では解剖学実習の真っ最中なの、夏休みで中断してるけど。九月から再開して来年三月いっぱいまでずっと続いて、四年の初めに試験があるのよ。これが最大の難関、ここを通れないと医者になれない。

だいいち、解剖そのものがすっごく大変なのよ、夜中までかかることもある。これはご遺体を使わせていただくのだから当たり前、仕方ないこととみんな納得してるんだけど、その後のテストは尋常じゃない。丸暗記しなければならない本の分量も普通じゃない、先輩からさんざん脅かされているわ」

と眉をひそめて本当に心配そうな顔になっている。