【前回記事を読む】白い猫について行くと、一軒の小屋が見えた。「お入りください」とその猫が言ったように聞こえた。中へ入ると……。

序章 新たな預言

英良の章(一)  振出し

「気にしなくていいよ、お兄ちゃん」

かけるは責めずに言う。

「これも運命だったからね、僕も運命には逆らえない。大きな渦の流れに乗ると、全てがその流れのとおりに動いて行くからね、誰も何もその流れに逆らうことはできない。むしろそれに逆らう方が不可逆的で不自然なんだよ、お兄ちゃん」

英良は黙っていた。

「僕は病院で治療を行ってきて手術もしてきた。それでも治らなかった。これは稚拙で儚い人間の領分なんだよ、お兄ちゃん。結果は分かっていた。お兄ちゃんが後悔したって元には戻らないよ」

かけるの影は揺れている。空中に投影された立体的なマネキン人形のように英良の見る方から後方の窓が身体から透けて見える。言葉が途切れると、かけるの身体はいつ消え去るのか分からないくらいに水面を漂う泡のように感じる。

「僕はもう長くはここに居られない。そろそろ帰る時間が迫っているの。お兄ちゃんが帰ったら、僕も戻るね。何も悔んだり、何も悲しんだりすることはないよ、物事には必ず終わりが来る。僕にはその時がちょうど一週間前のあの日だったんだ。決められていたんだねきっと、お兄ちゃんにも、お兄ちゃんの決められた運命がある。ただそれだけだよ、お兄ちゃん。時間が来たようだね、お別れの時が」

そう言うと、消え入りそうなほどかけるの影は薄くなり始めた。英良は気持ちを先行させるように振り返り小屋を後にした。後ろを決して振り向かないで元来た道を戻って行った。