越のコメ、魚と汁物、あったかくて美味い。息長氏と酒を酌み交わす。
――美味い。腹が空いていたのもあるだろうが、とにかく美味い。目を白黒させ食べている姫の愛らしいことよ。腹違いの二人の妹たちを残し、人身御供さながらに同行した手白香姫。目の前の息長氏に知れたら。
突然、金村は自分の責任の重大さを思い知らされた。
「長旅で、そろそろ今日はこれにて失礼します」
金村は、手白香を急かし、部屋へと退かせた。部屋の警備を従者たちに言い伝え、息長氏に明日の予定を聞こうと振り向くと、彼は貴公子然とした二人の青年たちと話し込んでいた。
何者。二人はよく似た顔立ちで、長身の彼らは賢そうだった。
「大和からおいでとか」ゆっくりと明朗な挨拶。ふむ。
「大王様の王子、こちらは勾大兄王子様。そちらは檜隈高田王子様」
息長氏が中に入り、金村に挨拶させた。ほほう、さすがスキがない。
「大王には沢山の王子や姫がいらっしゃるとか」と間髪入れず聞き返すが、
「お疲れでしょう。こちらもいろいろ重なり、また改めて」と、反対にやんわり受け流されてしまった。
疲れた体を引きずりながら二階の部屋へ上がり、ふと見上げると月が見えた。
食事の間中、ぽたぽた降っていた雪が止み、大潟水上に月がくっきりと浮かんでいる。
――美しい。幸先がいいかもしれない――
思わず手を合わせ、月に祈る。――郷に入っては郷に従えか――手を合わせている自分を面白く感じながら、久しぶりの寝床に入る。