「玉川温泉はがんに効果ありませんか?」と尋ねる患者さんは結構います。“温泉でがんが治るなら腫瘍内科医は必要なくなりますね”とお答えします。患者さん自身、温泉にがんを治す効果などないことは承知しているけれど、何かにすがりたいのだと思います。
対処に苦慮するのが宗教に関係する場合です。自分もがんで入院しているにもかかわらず、信じている宗教を同室者に勧めるのです。「一緒に教本を読みましょう」から始まって、「これを買えばがんが良くなります」と進んでいきます。日本には宗教の自由がありますが、入院中の布教はご遠慮いただいています。
溺れそうになって藁にすがってみても、やはり溺れる結果になります。溺れそうになっても、一旦冷静になって主治医に相談してみてください。
【腫瘍内科医のつぶやき】――次々と補完代替療法を選択した人――
ロシア語の同時通訳者米原万里さんが、エッセイ『打ちのめされるようなすごい本』注3)のなかで、20冊以上の本を読み、また何度もセカンドオピニオンを聞いて、手術・抗がん剤・放射線治療ではなく、補完代替療法を選択したと語っています。
卵巣嚢腫の診断で腹腔鏡下手術を受けるも、卵巣がんと判明。抗がん剤治療を否定する立場の医師のセカンドオピニオンを聞き、補完代替療法を選択。その時の医師の印象は「患者を思う底なしの優しさを垣間見た」。
1年4カ月後に左鼠径部リンパ節への転移が分かった時点で再度その医師のセカンドオピニオンを聞きました。その時の医師の説明は、「すでに転移しているので最大限で切っても転移していく悪循環、抗がん剤はほとんど効かない、痛みが出てきたら放射線で小さくするという手段くらい」。彼女の表現によれば「身も蓋もない救いのない意見」。
その後も「犯罪的高額に腸がにえくりかえりながらも、拒み切れない自分が情けない」と表現しつつ補完代替療法に頼りました。卵巣がんと診断されてから亡くなるまで、3年弱の経過で享年56歳。
注1)米国国立補完代替医療センター(National Center for ComplementaryandIntegrative Health)(閲覧日:2023年5月1日)
https://www.nccih.nih.gov/health/cancer-and-complementary-health-approaches-what-you-need-to-know
注2)がんの補完代替医療(CAM)診療手引き 独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費(課題番号:21分指-8-4)「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」班 山下素弘 国立病院機構四国がんセンター 呼吸器外科(閲覧日:2023年5 月1日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002lamn-att/2r9852000002lasd.pdf
注3)米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』 文藝春秋 2009年
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