【前回の記事を読む】「一日3時間座っていればがんが治る」――そう信じて150万円の椅子を買った人の奥さんは全く治ることなく亡くなった

第2章 患者さんの疑問に答える
抗がん剤以外の治療

7 「がん遺伝子パネル検査」で治療できないですか?

「パネル検査」は“検査”であって“治療”ではない

「がん遺伝子パネル検査」が2019年6月に保険適用になりました。適用条件は、①標準治療がない固形がん患者、②局所進行もしくは転移があり、標準治療が終了した(終了見込みを含む)固形がん患者で、もちろん次の新たな薬物療法を希望する場合です。また、全身状態などの条件もあります。

「検査」と「治療」の違いを理解していない方がいます。

まず、「がん遺伝子パネル検査」の説明が必要です。「がん遺伝子プロファイリング検査」とも言いますが、1回の検査でがんに関連する多数の遺伝子を同時に調べる検査です。

がんは遺伝子の異常により起こる病気です。その遺伝子の異常は同じがんであっても、患者さんによって異なります。個々人の遺伝子異常に合わせたがん治療(パーソナライズド・メディスンやプレシジョン・メディスンと呼びます)ができたらいいですね。そのために行うのが、「がん遺伝子パネル検査」で日本では主に三つの方法があります。

がん遺伝子パネル検査の種類

比較的新しい手術組織(たいてい3年以内)か、がんが多く含まれている生検組織があれば「FoundationOne®CDx がんゲノムプロファイル」(324遺伝子)、または「OncoGuideTMNCC オンコパネルシステム」(114遺伝子)でがん細胞の遺伝子検査をします。

がん組織が古くて遺伝子が劣化しているか、そもそも十分な量のがん細胞がなければ、可能な限り生検(病変の一部を採って、顕微鏡で詳しく調べる検査で生検組織診断とも呼びます)して上記の検査を行います。

どうしてもがん組織を取ることが難しい場合には、血液に紛れ込んだがん細胞の遺伝子を調べるために、患者さんの血液で「FoundationOne®Liquid CDx がんゲノムプロファイル」(324遺伝子)という検査を行います。

がん遺伝子パネル検査で分かること

日本の報告では「遺伝子パネル検査」で、なんらかの治療に結びついた割合は2019年時点で10.9%注1)です。けれど、この検査で見つかった治療を受けた結果、6カ月以上にわたり少なくとも病気の進行が抑えられたのは4%との報告注2)もあります。

「がん遺伝子パネル検査」は魔法の検査でもなければ、もちろん魔法の治療法でもありません。現時点では、この検査で新しい治療法が見つかる可能性は低いけれど、将来的に画期的な治療法に結びつくかもしれないと考えた方がよいと思います。

宮城県立がんセンター腫瘍内科の「がん遺伝子パネル検査」

当科の「がん遺伝子パネル検査」の現状を説明します。

2019年10月から検査を開始し、2022年6月までに22名の患者さんにこの検査を行いました。大腸がんが15名と最も多く、その他は胃がん、小腸がんなど様々な悪性腫瘍でした。

組織を提出したのは17名、血液を提出したのは6名。検体を提出して結果が出るまでの期間は平均で32日、新しい治療提案ができたのは5名(23%)、そのうち実際に治療に結びついたのは2名(9%)です。一人の患者さんは5カ月間新しい治療を行いましたが、脳転移が見つかり中止。もう一人はこれから治療開始の予定です。