【前回記事を読む】【紫式部日記】冒頭部は八月何日の出来事なのか? 日記はだれに書いているのか? 紫式部の本音を読み解くための考察!
第一章 紫式部日記
一 現行日記に沿って
日記はだれに書かれているか
尊敬語の用例は、次のようなものである。
このついでに、人のかたちを語りきこえさせば、ものいひさがなくやはべるべき。(一八九)
いと御覧ぜさせまほしうはべりし文書きかな。(二〇〇)
御文にえ書きつづけはべらぬことを、よきもあしきも、世にあること、身の上のうれへにても、残らず聞こえさせおかまほしうはべるぞかし。けしからぬ人を思ひ、聞こえさすとても、かかるべきことやはべる。されど、つれづれにおはしますらむ、またつれづれの心を御覧ぜよ。また、おぼさむことの、いとかうやくなしごとおほからずとも、書かせたまへ。見たまへむ。(二一一)
「聞こえさす」「御覧ず」「おはします」「おぼす」や二重敬語「せたまふ」が使われている。相手は身分の高い人であり、また、土御門邸の外にいる人であると考えられる。
いま一間にゐたる人々、大納言の君、小少将(こせうしやう)の君、宮の内侍(ないし)、弁の内侍、中務(なかつかさ)の君、大輔(たいふ)の命婦、大式部のおもと、殿の宣旨(せんじ)よ、いと年経たる人々のかぎりにて、(一三三)
土御門邸の一間に集まっている主な女房たちの名を挙げているが、皆長年仕えている人であるというが、相手はそのことを知らない人である。