第2章 聖ジョルジョ祭

聖ジョルジョ祭が近づいてきた。

フェラーラの国は一年中がお祭り騒ぎで、それがカーニバルと聖ジョルジョ祭の日に最高潮に達するのだ。人々は、雪の降る2月のカーニバルとは違った思いで、春の訪れを象徴する聖ジョルジョ祭を待ち焦がれた。フェラーラの、一番美しい、一番かぐわしい季節のお祭りを。

9年前、イザベラが初めてフランチェスコと出会ったのも聖ジョルジョ祭の日だった。船に乗って父と一緒にやって来た14歳のフランチェスコは、当時6歳だったイザベラとお手玉やおはじきをして遊んでくれた。

その後もフランチェスコは何度か、聖ジョルジョ祭の日に単身おしのびでフェラーラに来ているらしかった。

イザベラは、今年は特別聖ジョルジョ祭が待ち遠しかった。聖ジョルジョ祭のことを考えると胸がいっぱいになった。

今年の野外劇はプルターク英雄伝が上演されるのだ。イザベラの父エルコレ一世は政治面・文化面ともに優れた手腕を発揮していたが、趣味も多彩で、特に演劇には並々ならぬ関心があった。彼はラテン語をはじめ外国語で書かれた劇を自ら翻訳し、脚色した。

そして、毎年聖ジョルジョ祭には野外劇場を設営し、自ら監督した作品を上演するのだった。 今年のプルターク英雄伝は初めての作品で、父は躊躇したが、母のたっての願いで上演されることが決まったのだ。プルターク英雄伝は、フランチェスコの座右の書であった。

イザベラは、もしもフランチェスコが来るならば、必ず野外劇場に現れるに違いないと思った。

  

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