戻ってくると、フランチェスコは同じ所にいた。
イザベラが続きを読もうとした時、不意にエンリーコとルチオが立ち上がり、声を挙げた。
「フランチェスコさん、こっち、こっち」
「早く、早く」
見ると、彼らはフランチェスコの両手をぐいぐい引っ張って、部屋の隅の小机の方へ連れていった。彼らはそこで本を開いて見せながら、フランチェスコに何か頻りに話しかけていた。
しかし、暫くすると、フランチェスコは彼らを振り切って、またこちらに走ってきて、ステファノの隣に座った。途端にステファノはフランチェスコに背を向けた。イザベラは驚いて目を見張った。ジョヴァンニは一言も喋らなかった。
ふと見ると、エンリーコとルチオが部屋の隅から投げやりな目でこちらを見ていた。 どれほどの時間が経ったであろう。
部屋の中は静かで、背後のテーブルは誰一人喋る者も無かった。
もうフランチェスコは帰ってしまったのであろう、と思ってイザベラは振り返った。
その途端、無言でこちらを見つめているフランチェスコと目が合い、イザベラは慌てて本に目を落とした。
やがて夕方になり、フランチェスコは少年たちと一緒に出て行った。
次の日からイザベラは、「ラテンの部屋」へ行くたびに、フランチェスコが現れないか、半ば無意識のうちに気にする様になった。
大きな樫の扉を開けると、一瞬のうちにイザベラは部屋の中を隅々まで見渡した。
本を読んでいても、人が入ってくるたびにイザベラは顔を挙げる様になった。
しかし、来る日も来る日もフランチェスコは現れなかった。