現れたのは褐色の肌の老人だった。そして、その老人は座ったままの亜美に深々とお辞儀をしてから、握手の右手を差し出してきた。慌てて立ち上がった亜美。その老人の腕にはきれいな模様の青いタトゥーがあった。「こちらが、この地の伝統や文化を伝え続ける魂の伝道者、コミネ酋長です」
「初めまして、日本人の名前みたいですね」
「パラオには多いですよ、日本の名前を持っている人が」
何が何だかよくわからない展開に戸惑いながらも、不思議と疑う気が起こらず、素直に全てを受け入れる自分を亜美は感じていた。
「わたしは、あなたのご両親にも会いました」
「ええ!!! そうなんですか? それにしても日本語がお上手ですね」
「わたしたちの年齢までは多くの人が日本語を話せますよ」
「えー、そうなんですか!」
穏やかな笑みを浮かべながら酋長は続けた。
「あなたのご両親は、なかなか子宝に恵まれずにいて、お悩みだったのですよ」
「えっ、そうだったんですか?」
「はい。そこでお二人はどちらからともなく、戦争で亡くなった兵士たちの慰霊を始めようと思ったようです」
「そこでここパラオへ来られました」
「そうだったんですね」
「さあ、まずは乾杯しましょう」
コミネ酋長は穏やかな笑みと共にグラスを手にし、亜美とソフィアと共にグラスを合わせた。そしてパラオの海の幸を食べながら、亜美は酋長の話に耳を傾けた。
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