【前回の記事を読む】日本兵だけでなくアメリカ兵も――スタジアムが日本代表の活躍に湧いたあの日。英霊たちは集まって肩を抱き、涙を流していたのだ
太平洋の波の上で ─22年後─
サクラサクラ
「わたしたちの身近な祖先たちはいつも言っていた。日本統治時代だけは幸せだった、日本の皆さんとやった運動会、パン食い競争は楽しかった、最高の思い出だったとね。
やがて日本がアメリカと戦争を始めた。このパラオにもアメリカ軍が迫ってくることになったとき、この島の祖先たちは、日本の皆さんと一緒に戦うと言ったのだ。ところが、日本の軍人さんたちは、わたしたちの祖先を島から追い出した。誇り高き大日本帝国軍人は貴様らのような人間とは一緒に戦うことなどできないと言ってね」
亜美はナイフとフォークを置いた。
「わたしたちの祖先を船に乗せて、船が浜から出ていきかけたとき、日本の軍人さんたちが全員浜辺に出てきた。そして敬礼して見送ってくれた」
「えー、何々?」
「全てはわたしたちの祖先を戦争に巻き込まないためだった。そのお陰で今のわたしたちの命があるんだ。アメリカ軍が1週間もいらないと予想したペリリュー島の戦闘で、日本は2か月以上持ちこたえて、全員命を落とした。そのときに日本に打電したメッセージが……」
「サクラサクラ!? なんですね、それでソフィアの名前にはサクラが」
と亜美は答えた。
「そう、あのときの感謝をわたしたちは永遠に忘れることはないの。
今日の橋のところでパラオの国旗見たでしょ? 青に黄色の丸。あれはね、日本は日の丸でしょ、世界を照らす太陽。だからパラオは夜の太平洋を照らす月になろうって。そしてね、丸を少しずらしてるのは日本への礼儀なのよ……今日話した西太平洋戦没者の碑の瞳はね、真っすぐ東京の九段、靖国神社を向いているの」
とソフィアも優しく語った。
「先月も日本の女性たちが旅行に来て案内したけど」
ソフィアの表情が変わった。
「日本がこの地でとんでもない軍政を敷いて、わたしたちの祖先を苦しめたと思っているのよ。お客様だから何も言わなかったけど、日本の教育はいったいどうなっているの?と思ったわ」
「でも、確かにアジア全域でとにかく悪いことをしたと伝えられている気がする」
「そう、残念ね。自分たちもあの時代そのものと日本の軍人たちの被害者だと思っているようなのよ」
ソフィアの言葉を聞いて、コミネ酋長がなんということだという表情で首を横に振りながら言った。