「じゃあ、小林さんがインスリンを入れたという可能性は?」

「まさか。小林さんは三十代独身で、石川と関係性があったとは思えないわ」

「そうなると、やはり俺が見た梨杏がインスリンを点滴ボトルに注入したと考えるのが妥当か。もしそうだとすると、インスリンはどうやって手に入れたんだろう」

「それが、その数日前に金清さんに使っているインスリンのペン型注入器がいつの間にか一本紛失していて、インシデントになっていたの。きっとそれを手に入れたんだわ」

「インスリンはどこに保管しているの?」

「それも処置室よ」

「じゃあ、やっぱりそれを手に入れるのは難しいんじゃないか?」

「そうね・・・・・・」

「中村大聖と石川嵐士の事件はやはり同一人物の犯行だと思う。ただそれを考えると、どうしても一夏が最も怪しくなってしまう。ひょっとして犯人はそれを狙っているんじゃないか? わざわざお前が夜勤の時を狙って事件を起こしているような気がする」

「それってひょっとして梨杏が私を恨んでいるってこと・・・・・・」

一夏の顔が一層蒼褪めた。

「確かに私は梨杏に何もしてあげられなかったけど、どうしてそこまでするの・・・・・・」

震える彼女の肩に海智はそっと手を置いた。

「まだ梨杏がやったとは決まっていない。その芳谷さんっていう薬剤師に話を聞いてみないか。インスリンは薬剤部で既に注入されていた可能性だってある」

「芳谷さんがやったって言うの? あの人は二年前にこの病院に就職したんだけど、元々は名古屋の出身で、とても事件とは関係ありそうにないけど」