「奥方様! なりませぬ! おやめ下さい!」     

大坂方に加勢していた阿古の夫にして、長宗我部家の旧臣・佐竹親直(ちかなお)の凶報に接し、懐から匕首(あいくち)を取り出し、涙を流しながら自害を図る阿古。必死の形相で止める近習たち。

「阿古! 阿古! 何をしておるか!」

「兄上……よくぞご無事で……」

阿古の兄である長宗我部盛親が、前線から大坂城に戻ってきた。

「阿古、よう聞け。今から子らとともに城を出るのじゃ。紀州街道を南に下り、『釣鐘の馬印』をひたすらに目指せ。釣鐘の馬印じゃ。よいな」

「釣鐘の馬印……味方なのですか、敵方なのですか」

「行けば分かる。とにかく兄の言うことを信じよ。悪いようにはせぬ」

「敵方に下るのであれば、嫌です! 我が殿も討死して果てました。もはやこの世に何の未練がございましょう」

「阿古! 死ぬことは断じて許さぬ! よいか、父上は亡くなる前、こう仰せじゃった。『太閤殿下が身罷られ、またいずれ世は乱れ、戦になるやもしれぬ。家中の女子供は何があろうとも生きて、長宗我部の血を絶やさず、のちの世まで残すよう計らえ』と。父上はこれを遺言と心得よ、と」

「父上が……」

「そうじゃ。今すぐ行け! ぐずぐずするな。父の命であるぞ。行くのだ!」

これが、兄妹の今生の別れとなった。

 

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