【前回の記事を読む】どぎまぎした。いきなり美しい傀儡女にひざまずかれ、「何という幸せでございましょう。本当にありがとう存じます」と…
第一章 月の面影
鈴を振るような笑い声が御簾(みす)から聞こえた。周りの女房達も、巡(めぐ)り合わせに驚いていた。
堀川局(ほりかわのつぼね)が、乙前(おとまえ)を立たせて衣装を直してやりながら声をかけた。
「それにしても乙前(おとまえ)は、監物(けんもつ)様はたいそう厳しいお方だった、と申していましたよね」
女房達が、笑いさざめいた。
「は、はい。でもそれは、わたくし達のためなのでございます。
あまりに修行が辛くて、わたくし達が泣き言を申しましたら、監物様はおっしゃいました。
『若い頃はともかく、老いて容色の衰えた時には、歌の心得(こころえ)があってこそ貴人(きじん)の召(め)しにも預かれるのだよ』と」
「それでは」
と堀川局(ほりかわのつぼね)が明るく話しかけた。
「その磨(みが)き上げた今様(いまよう)を、この監物様のお孫さんに聞かせてくださいな。監物様も、きっとお喜びになりますよ。
さ、義清殿は、ここで、聞かせてもらいましょうね」