真新しい靴がそこかしこに陳列された店の中を、二人でぶらつく。夏向けのサンダルコーナーからは、ひときわきついゴムの匂いがする。女性用のサンダルや男性用の革靴など、いろいろ見ながらスニーカーが売られているコーナーへたどり着いた。

緑や白、赤に青。色とりどりのスニーカーを物色するうち、自分の足と同じサイズの棚に自然と目が行く。スニーカーといえば、ポップだったり派手だったりするイメージだ。普段履きに適している。

でも。

(あ、これいいな……)

そう思われたスニーカーは黒一色で、上品な革靴のように垢抜けした大人っぽさを感じさせる。

永ちゃんはそのスニーカーに手を伸ばす。

「これかな」

「似合うと思うよ。永ちゃんに」

互いに品の好みが共通していることが、素直に嬉しかった。永ちゃんは、そのスニーカーの在庫品をすぐに見つけ出して手に取った。箱の中身を確認してから会計を済ませた。三五六〇円のスニーカーは助手席に座る私が膝に抱えて持つことになった。

ほどなく帰宅して、永ちゃんは庭前の駐車スペースに慣れたハンドルさばきで車を入れる。スニーカーが入った袋を助手席に置こうとした時、運転席でギアをパーキングに入れた永ちゃんが、シートベルトをしたままじっとこちらを見ている。

「やるよ」「えっ!?」

驚いて永ちゃんを見れば、彼は歯を見せてにっこり笑っていた。

「だから。やるよ、それ」

永ちゃんは笑って、スニーカーの入った袋を指差した。綻びてぼろぼろになった自分のスニーカーが目に留まる。永ちゃんは、私のこのスニーカーに気が付いて、新しいのを買ってくれようとして、わざわざ靴屋に寄ってくれたのだ。

「永ちゃん。ちょっと悪いよ。お金は払うから!」

「いいんだ。知ってるか。イタリアにはこんなことわざがあるんだよ」一つ咳払いして、永ちゃんは重々しい調子で話し始める。

「人が履く靴はその人の人となりを表している。ぼろぼろのその靴がお前の人となり、だなんて俺には到底思えない」

「お金のことは気にするな。今日俺に付き合ってくれた礼だと思ってほしい」

ぎゅっ。運転席の永ちゃんの手が、スニーカーの入った袋を私に握らせてくれた。

ぎゅっ、ぎゅっ。永ちゃんの手のぬくもりが、私の手を柔らかく包み込む。そのぬくもりは、言葉よりも遥かに雄弁に、彼が私のことを気に掛けてくれていることを物語っていた。

次回更新は5月1日(木)、22時の予定です。

 

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