「平気なんかじゃない」

桃加の顔が俄かに蒼褪めた。

「平気なんかじゃないわよ。確かに私達は梨杏を虐めていた。でも、私は学校で嫌がらせをしていただけ。でも、あの三人はその内に学校が終わってもあの子を呼び出すようになってた。終いにはあの子を輪姦したことを私に自慢してくるようになった。

私は怖くなって、もう梨杏ともあいつらとも関わらないようにしていたのよ。それがあんなことになるなんて・・・・・・取り返しのつかないことをしてしまったと何度も後悔した。でも、何度も悪夢にうなされて、もうどうしようもなかった。

今更私が何をしても、許されないことだとは分かっている。でも、梨杏のために何かできればと思って、看護学校にも行ったけど、結局看護師にはなれなくて、それでこの病院で看護助手をしているのよ。お母さんにも何度も謝った。でも、謝る以外何も言えなくて・・・・・・」

桃加はいつの間にかアイラインが溶け出して黒い涙を流していた。

「勝手な話だ。そんなことしたってもう梨杏は元には戻れない」

海智は吐き捨てるように言った。

「そうよ、勝手な話よ。蒼に初めてこの病院で会った時もそう言われた。でも今は私の気持ちを理解してもらっている。蒼のお陰で私は立ち直ることができた」

「まさか、お前達付き合っているのか?」

「付き合ってはいない。でも、私はその内に気持ちを伝えるつもり。だから、あの女には私の邪魔はさせない。絶対に」

そう言い放つと桃加はトレイをひったくり、部屋を出て行った。

まさか桃加が蒼に惚れているなどとは海智には思いもよらなかった。それにしても妙な取り合わせだ。プライドの高い蒼があんな下衆な女など相手にするだろうか。彼が首を傾げていると、ドアをノックする音が聞こえたので行ってみると、そこにはネイビーのシャツワンピースに着替えた一夏がやつれ切った様子で、無言でうつむいたまま立っていた。

  

次回更新は5月4日(日)、11時の予定です。

 

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