【前回の記事を読む】突然話しかけてきた男性。運命を感じる出会いを果たし、ふたりの距離は急速に縮まっていく。

第一章 全てを赦(ゆる)す色

ローテンブルクのクリスマス

コーヒーとパンを買い、二人で車に乗った。しばらく走ると世界遺産の街ヴュルツブルクに到着した。マリエンべルク要塞と石橋は街の代名詞となっている。

またしばらく走らせるとヴァイケルスハイムに到着した。ヴァイケルスハイム城に続く庭園はバロック様式で美しく、紫衣と真亜は肩が触れる距離で歩くようになった。

フォルクスワーゲンPOLOは二人の間を縮めるのに最適な大きさだった。

ほどなくしてローテンブルクに到着した。

ローテンブルクのクリスマスマーケットは、ドイツで最もロマンチックと言われ、まさにそのシーズンに二人は来てしまった。

石畳の路地など中世の街並を残す街である。旧市街の市庁舎はクリスマス仕様になり、聖ヤコブ教会の近くのマーケットは、まるでお伽の国の世界となる。赤ワインのグリューワインはもちろん、ここでは白ワインの グリューワインも楽しめる。

城壁に囲まれた中世の街並みが残るローテンブルクは南ドイツ、バイエルン州にある。ここは豚肉の料理が美味しいと有名でそれに合わせるワインも世界的に高い評価を受け、フランケンワインなどがある。マイン川上流のぶどう畑で採れるシルヴァーナ種の辛口の白ワインは堪らない美味しさだ。

真亜はあらかじめ調べておいた古い家屋のZURHOLLというレストランで食事をしようと紫衣を誘った。

「ZURHOLLの意味は『地獄へ』だけど、味もすごくいいと聞いてるよ。フランケンワインも飲めるし」

「わぁ、地獄? すごく行ってみたい!」

少しわかりにくい路地裏にその古いレストランはあった。

ウェイターが飲み物は?と聞いてきた。

車だから、と躊躇している真亜に、紫衣が、

「泊まったらいいじゃない?」

と下を向いて呟いた。

恥ずかしそうに真亜も、そうだね、あとでホテルを予約しよう、そう言って、ドイツビールと白いアスパラガス、店の名物のスペアリブをオーダーした。食事を美味しくするのは楽しい会話だ。でも時には味がわからないほど高揚するときもある。

紫衣は自分の両親のこと、年の離れた兄一家のこと、子供の頃のこと、そして調色師になろうと思ったこと、今の会社のことなどフランケンワインを飲みながら話し、真亜はそれを嬉しそうに聞いていた。