【前回の記事を読む】「君との子供が欲しい」──2日間で恋に落ちた二人の愛と聖シュテファン教会のステンドグラスが導いた運命

第一章 全てを赦(ゆる)す色

ローテンブルクのクリスマス

点滴をお願いしますと言っても、本人がいりません、大丈夫ですと言うので、と病院に断られた。

父が少しでも食べられるように色々なものを持っていったがあまり食べず、たまに妙なことを言うようになった。帰りがけにナースステーションでそのことを聞くと看護婦は「ああ、モルヒネの影響かもしれませんね」と言った。

紫衣の知識では モルヒネは治療できない人の痛み止めという認識があり、崩れ落ちて泣いた。

「そんな話は聞いてない、モルヒネを使うなんて聞いてない、なんで点滴をしてくれないんですか? 治療法を明示してくれないんですか?」

主治医が慌てて出てきて、「モルヒネを使いながら治療してる人はたくさんいるんです。特別なことではありません」と説明された。

日に日に父は弱っていった。それでも退院する日を待ちわびて。

そして退院する週の夜に紫衣は病院から呼び出された。

お父様が肺炎になったので来てください、と。

すごく苦しそうにしてる父を慌てて特別室に移し、紫衣もそこに泊まった。

翌朝、主治医がやって来て、

「30度起こされているベッドを平らにしたらすぐに亡くなります。または意識はなくなりますが、人工呼吸器をつけて回復を試みる選択肢もあります。どうされますか?」と言った。

紫衣は「父が苦しくない方にしてください」そう言った。