【前回の記事を読む】父が探していた青がここにあった――ドイツ・マインツの聖シュテファン教会に入った瞬間息を飲むブルーに涙が溢れ…
第一章 全てを赦(ゆる)す色
ローテンブルクのクリスマス
「どうしましたか? 具合が悪いなら少し休みますか?」
男性は床に座り込んでいる紫衣に聞いた。
「いいえ、大丈夫です。想いが溢れてしまって」
「わかります。僕もこの青の光をみた時に言葉にならない暖かさに包み込まれました」
二人は黙って教会の中の青を感じていた。紫衣は立ち上がり「父がステンドグラス作家だったんです」と伝えた。彼はステンドグラス作家という言葉に馴染みがなかったので少し驚き、
「そうなんですか。ドイツにはステンドグラスを見るためにいらしたんですか?」
と聞いてきた。
「いえ、ドイツには調色師のお仕事で来たんです。今日はたまたまお休みで……。あ、私、紫衣っていいます。あなたは?」
「僕は真亜(まあ)といいます。医療関係の仕事でドイツに転勤で来ています」
二人の距離は少ない会話でもどんどん縮まっていった。紫衣のボーイッシュな出で立ちとスレンダーな体型は二十七才より若く見える。真亜という青年は髪の毛を伸ばして一つに結んでいて、遠目には中性的な印象がある青年だった。
青の光の中で二人が向かい合い、自己紹介をした。紫衣と真亜。なぜか昔からの知り合いのような感覚を抱きながら。お茶飲みましょうか、と真亜に言われたときに、紫衣はまだ今日は何も食べていないことに気づいた。
「もう少し、この青を感じていていいですか?」
真亜は頷き、小一時間ほどだろうか、真亜も紫衣の横に佇んでいた。長身で細身の二人はまるで青の海の中に漂う植物のようにも見えた。ゆらゆらと漂うナガアオサのように。
聖シュテファン教会を出て、ライン川の近くに行くと、ドイツの三大聖堂と言われるマインツ大聖堂がある。マインツ大聖堂は、ドイツのマインツにあるローマ・カトリック教会の大聖堂だ。
この大聖堂は、カール大帝によって建設された正教会の最初の大聖堂の一つであり、中世初期に重要な役割を果たした。
高さ八十メートル以上にもなる大聖堂は中世の芸術作品が息づきロマネスクおよびゴシック様式の建築のままである。大聖堂のファサードや玄関のドアは、プロテスタント宗教改革、七年戦争、そして第二次世界大戦の間に多数の戦争被害を受けたが、修復され荘厳な存在感を放っていた。
そのドームの前に1970年代からあるDom-cafeというカフェに二人は入った。ドイツのコーヒーは美味しく、何よりも紫衣はドイツのパンが好きだった。噛み締めると堪らなく豊かな香りがして、大地の旨味が出てくるのだ。