赤べえは、うきうきと、磯にむかって歩きだした。海はあくまでも青く、波がゆったりと岩にあたっては砕けている。
見晴らしのいい岩にのぼると、われ鐘のような大声で呼ばわった。
「おおい、青べえやーい! 黒べえやーい! どんべえやーい!」
すると岩山のあちこちから、青鬼だの、黒鬼だの、まだらの鬼だのが、眠そうに目をこすりながら、ほら穴からはいだしてきた。
「だれだい、朝っぱらからそうぞうしい」
「おいら、おいらだよ。赤鬼の赤べえだよ。どうだい、いっしょに海をわたって、人間どもを襲おうじゃないか」
けれども鬼どもは、なんにもいわずに、赤べえの顔をじろじろとみるばかりだ。
「どうしたんだい。おいらのいうことが、きこえないのかい!」じりじりして、足をどんどん踏みならした。
「赤べえだと?」
鬼どもは、たがいに目くばせをした。
「おお、そうとも。人間どもを襲って、食おうといってるんだ」すると、思いもよらない答えがかえってきた。
「バカも、やすみやすみいえ。どこに、つののない鬼がいる。おまえは赤べえじゃない。人間だ。自分の頭をよくみるがいい」赤べえはびっくりした。
「なんだって? おいらが人間だって? つののある人間がいたら、お目にかかりたいものだね!」
そういいながら、頭に手をやると、思わず声をあげてとびあがった。ゆうべまでたしかにあった、あのりっぱな自慢のつのが、根もとからすっぱり切り取られたように、なくなっているのだ。