【前回の記事を読む】「おねがいです。どうか、この子たちをひきはなさないでください。」やせたジドに寄り添うネムを見て、母は訓練士に懇願する。

つのを折った鬼

ある朝、目をさますと、頭がやけに軽い。風がすうすうと頭の上を吹いていくようだ。今日はきっとすばらしい天気だぞ。赤べえは、ま新しいトラの皮のパンツのひもをきりっとむすぶと、元気よくほら穴をとびだした。

思ったとおりの青空だ。赤べえは、うきうきと、島の守り神である大鬼神社にやってくると、大きな、それこそ岩ほどもある鈴を、ガラガラと鳴らして、手をあわせた。

「今日も、うまい獲物が、たっぷりとれますように」

祈りおえると、入り口のそばに積んである、太い薪を一本とって、灯明の火にくべた。

いいつたえによれば、この火は、むかし、この神社の大杉にカミナリが落ちたときからのものだというが、今では、大きなけものや、人間の肉が手にはいったときに使う焚き火の火種として、大切に守られている。

その大きな灯明にあたりながら、赤べえは、大鬼さまのまっ黒なお姿をみあげた。それは、太くて、たくましい両足をひろげて、黒い、りっぱな金棒を手に、雲つくようなお姿で、ニョッキリと立っている。

なんでも、むかしは、鬼という鬼は、みんなこれくらい大きくて、雲も呼べれば、空も飛べ、日本国はおろか、唐、天竺までも荒らしまわるほど強かったのだが、それが、あのにっくき雷光めに、片腕を切り落とされてからというもの、どいつもこいつも、めっきり弱くなって、神通力もなくなれば、体もぐんと小さくなり、ついには、このちっぽけな鬼ヶ島に閉じこもるようになってしまったのだ。

それでもまだ、並みの人間どもにくらべれば、すこしは体も大きく、力も強い。それになにより、鬼というものは、ものすごく強くて恐ろしいものだと、人間どもは思いこんでいる。

―どおれ、今日は、久しぶりに、人間どもを襲うとしようか―