憎悪の感情を目つきに表して、浅田は私を睨んでいるのである。あまりにもありふれていて、何でもないような会話の途中で、唐突に出くわした言葉。

返す言葉が見つからなくて、私は浅田とその周囲のやり取りをぼんやりと聞いている。

私の手がどんなに冷たくなっても、私の目がどんなに悲しみにあふれていても、彼らは気が付く様子すらない。

「本当かよ、それ」

「本当だよ。俺の母ちゃんがそう言っていたし、近所のイトウのばあちゃんも言っていたから」

「うっわ、だからあいつ、キムチ臭いんだ」

実際は、キムチ臭くなんかないはず。臭いことなんかしてはいなかったはずなのに。幼い私には、二の句が継げなかった。

その日からというもの、私はクラスメイトのほとんど全員に無視され、話しかけてくるのはごく一部だけになった。つまり、学級委員とか班長とか、何かの役を担当している級友だけである。

この子らは、いかにも嫌そうに、役のためだけに話しているのだということが、ありありと伝わってくる。

私は彼らに話し掛けられるたび、精一杯の笑顔を作って応じた。頬が引きつって震えてしまうようなみっともない作り笑いだったが、それでも今以上の疎外に心が傷つけられるのを、どうかして避けたかったのである。

学校の先生に相談したらいいのかどうか悩んだ。この時の担任は定年間際の男の教師で、頼ろうにも、そういう年代の男の人には良くない印象しか持てない。

カルト教団の教祖を「おじいちゃん」と呼んだ幼い私への暴力。

お母さん、と助けを求める間もなく、私は大人たちの腕で、脚で、殴られ、蹴りつけられたのだから。血まみれにされ、もはや痛みを痛みだとも認識できない。 ――「異端者だ」

聞こえる声の意味は分からなくても、向けられる感情の鋭さが恐ろしかった。

――「異端者だ」

私はふらふらと学校の敷地を出た。授業が終わったのか、途中で勝手に早退してしまったのかも覚えていなかった。ふと面を上げると、近くでバス停に立っている大人たちと目が合う。

胸に付いた名札に視線が集中している気がして、私は名札をランドセルの肩紐でそっと隠した。

「ほら、あの子。あのナントカいう新興宗教に入信して、韓国に行ってたとかいう家の子よ」

「あー、あの家の」

背後から風に乗って聞こえてきた噂話に、私は思わず走り出す。

次回更新は4月22日(火)、22時の予定です。

 

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