【前回の記事を読む】畑へ忍び込んで作物を荒らしていたのは大豆のような虫――のはずが…

たった一匙の実

スズキ青年は用意していたスコップと空のドラム缶を持ち出し、作業を始めた。大豆虫はあっと言う間に駆除されてしまった。ドラム缶6杯の大豆虫は、富農氏と相談しスズキ青年の所有物となり、熱湯で茹で絞ってみると良質の豆乳と区別がつかない。

顔見知りの屋台のおじさんに持ちかけてみると、いい商品を仕入れたと10 万マネーもの対価を得られた。残った絞りかすは富農氏と相談し、これも肥料として5000マネーで買い取られた。

ときおり夜空に光り輝く円盤が現れたが、やがて去った。スズキ青年は友人に色を付けて借金を返し、街へ食事へと繰り出した。

飲食店では出される食事がなにもかもうまかった。しかし翌日、食あたりの強烈な腹痛で病院へ駆け込んだ。お医者には念のため入院しようと言われた。稼いだお金は全額治療費へと消えるもようである。

スズキ青年は数日うんうんと呻吟(しんぎん)していたが、病院食にも慣れ、そろそろ退院かというときに友人が見舞いにやって来た。ちょうど昼であった。

「病み上がりに働き過ぎて、いつもなら平気な食事にも、胃や腸が過剰に働いたのかな」

「でもだいぶ回復したよ。このおかゆ、美味しいんだ」

鮮やかな紫色の、得体の知れない食物だった。スズキ青年は匙でおかゆをすくって、

「この原料、いったいなんなんだろう?」と呟いた。

すると賄い婦のおばあさんが、憎悪とも悪意ともつかない顔で、

「それは知らない方がいいんじゃない」と言った。