川面は穏やかな小波を刻み、褪せた夕焼けを映じていつまでも揺れていた。放心して迎える黄昏の時間を、マイ・ラケットをお供にしてしばらく佇んだスズキ青年は、満ち足りた気分でその場を去ろうとした。

最後に小寒い河原を振り返り、向こう岸を一瞥すると、大小の墳丘が目についた。昔から偉い人が埋葬され、いまでも永遠の眠りについているのだ。

しかしスズキ青年の目に、赤い光がチラ、と目についた。あれはひょっとして、風雨で地表が流出し、埋葬品の高価な宝石が夕焼けのかすかな光に照り返ったのではないか? 墓荒らしは重罪である。しかし宝玉は危険を冒してでも手に入れる価値はある。

スズキ青年は意を決して川を渡り、墳丘群に紛れ込んだ。濡れた足下は冷たく不快だった。湿った足音を立てながら、宝石の輝いた場所を探した。墳丘の谷間をあちこちさすらうと、もっと奥になにかの光があるではないか。

一攫千金!

スズキ青年の心の中では、墓を暴くという罪悪感より、現世を安楽に生きようとする欲望が遙かに、遙かに勝っていた。胸は高鳴り、鼻息も荒くスズキ青年はその輝きに向かって歩いた。埋葬者の腐敗した臭いが辺りに充満し、歩行のたびに足下では小さな枝が折れる感触が伝わってきた。

輝きは近づくたびに遠のいているのではないか。ずいぶんと歩いた。足下で折れる枝は、人の骨なのではないか……。そんな思いが脳裏をかすめると、確信は怯えとなり、欲望よりも死への恐れが胸の内を占めた。

そこへなにかに躓き、転んでしまった。薄闇の中で、棺であることがわかった。強い風雨に墳丘が崩れ、露出したのだろう。

 

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